Humane Foundation
気候

COPの食料・農業分野の成果に関する5つの神話:2024年の真実

COPでの議論は単なる空虚な約束だと考えられがちですが、食料システムの変革に向けた重要な進展が実際に生まれています。その実態を解き明かします。

著者 佐藤 理恵4 分で読了東京, JP
持続可能な農場で収穫される色とりどりの野菜。COPにおける食料・農業分野の成果を象徴する一枚。
Humane Foundation / AI-generated

気候変動枠組条約締約国会議(COP)における食料と農業に関する成果は、しばしば進展がないと批判されますが、実際には重要な変化が起きています。特にCOP28の首脳宣言は、150カ国以上が食料システムを国家気候計画に統合することを約束した画期的な一歩であり、具体的な政策変更への道筋を示しています。

毎年開催されるCOPは、エネルギー転換や化石燃料の段階的廃止といったテーマに注目が集まりがちです。しかし、私たちの食卓と地球の未来に直結する「食料システム」もまた、気候変動を語る上で欠かせない要素です。近年、この分野での議論は急速に深まり、重要な進展が見られるようになりました。それでもなお、COPの食料分野での成果については、多くの誤解や過小評価が存在します。本記事では、データと専門家の知見に基づき、5つの一般的な神話を検証します。

神話1:「COPでは食料や農業の問題はほとんど議論されていない」

現実:これはもはや過去の話です。歴史的に食料問題が気候交渉の傍流に置かれていたことは事実ですが、近年その重要性は劇的に高まっています。転換点となったのは、エジプトで開催されたCOP27で設置された「農業と食料安全保障に関するシャ름・エル・シェイク共同作業」でした。これにより、食料システムが正式な交渉議題として定着しました。

そして決定的だったのが、2023年のCOP28で採択された「持続可能な農業、強靭な食料システム及び気候行動に関する首脳宣言」です。この宣言には159カ国が署名し、自国の気候変動対策計画に食料システム変革を初めて明確に盛り込むことを約束しました。これは、食料問題が気候変動対策の片隅から中心へと躍り出たことを示す象徴的な出来事です。 統計:COP28の宣言に署名した159カ国は、世界の食料生産の80%以上、世界の農業関連排出量の76%、そして世界の農業GDPの81%を占めています(FAO、2023年)。これは、気候変動対策における食料システムの役割を、世界の大多数が公式に認めたことを意味します。

神話2:「COPの宣言は、法的拘束力のない空約束に過ぎない」

現実:宣言自体に法的な拘束力がないのは事実ですが、それを「空約束」と断じるのは早計です。このような国際的な宣言は、強力な政治的モメンタムを生み出し、各国政府に対する説明責任の根拠となります。COP28の宣言の最も重要な点は、署名国が2025年までに国連に提出する次回の「自国が決定する貢献(NDC)」および「国別適応計画(NAP)」を更新する際に、食料システムの目標を盛り込むことを約束したことです。

上空から見たアグロフォレストリー。気候変動に配慮した農業の一例。
樹木と作物を組み合わせるアグロフォレストリーは、炭素を貯留し土壌を豊かにする。Humane Foundation

これにより、各国は食料システム変革に関する具体的な計画と進捗を国際社会に示す義務を負います。これは、抽象的な約束を具体的な政策に落とし込むための公式なメカニズムです。さらに、世界銀行や国連食糧農業機関(FAO)などの国際機関は、この宣言に沿った形で開発資金や技術支援を振り向ける動きを強めており、約束が行動に移されるための環境が整いつつあります。

宣言はゴールではなく、スタートラインです。各国が約束を具体的な政策と投資に転換できるかどうかが、今後2年間で問われることになります。

ジョアン・カンパリ、世界自然保護基金(WWF)グローバルフードプラクティスリーダー

神話3:「議論の焦点は農業技術だけで、食肉消費の問題は避けられている」

現実:この指摘には一理ありますが、状況は変わりつつあります。先進国における過剰な食肉消費が気候に与える負荷は、依然として公式交渉の場で正面から取り上げにくい「部屋の中の象」のような存在です。しかし、科学的な事実はもはや無視できません。FAOが2023年に発表したロードマップでは、畜産からの排出削減が不可欠であることが初めて明確に言及されました。

市民社会や一部の先進的な国々は、より植物性の食品を中心とした食生活への移行(プラントリッチ・ダイエット)を公式議題に含めるよう、働きかけを強めています。食料生産の効率化や技術革新(生産側の対策)だけでなく、需要側の対策である消費パターンの変革にも光が当たり始めており、今後のCOPではこのテーマがより重要な位置を占める可能性があります。

品目温室効果ガス排出量(kg CO2eq)土地利用(m²)
牛肉(肉牛)99.48326.21
羊肉39.72184.97
チーズ21.2849.71
鶏肉9.8712.19
豆腐3.163.52
豆類(乾燥)1.793.58
食料品目別の環境負荷比較(1kgあたり) 出典:Our World in Data, 2022

神話4:「食料システム変革は、途上国の小規模農家の負担を増やすだけではないか?」

現実:これは気候正義の観点から非常に重要な懸念事項です。世界人口の大部分を養っている小規模農家に不公正な移行を強いることは、食料不安を悪化させかねません。しかし、COPでの議論や関連イニシアチブは、彼らを犠牲にするのではなく、むしろ支援することに焦点を当てています。

スマートフォンで農作物のデータを確認する農家。テクノロジーが持続可能な農業を支援する。
デジタル技術は、小規模農家が気候変動に適応するのを助ける。Humane Foundation / AI-generated

例えば、「気候のための農業イノベーションミッション(AIM for Climate)」のような取り組みは、干ばつに強い作物品種や水効率の高い灌漑技術など、気候変動への適応と強靭性向上に資する技術や資金を途上国に提供することを目指しています。目標は、グローバル・サウスの農家を罰するのではなく、彼らが持続可能な農業の主役となれるような「公正な移行」を実現することです。 統計:世界の食料の約3分の1は、5億人以上の小規模農家によって生産されています(FAO、2021年)。彼らへのエンパワーメントなくして、食料システムの真の変革はあり得ません。

神話5:「再生可能エネルギーへの転換に比べれば、農業排出のインパクトは小さい」

現実:これは問題の規模を著しく過小評価しています。農場での生産から、加工、輸送、消費、そして食品廃棄に至るまでの食料システム全体は、人間活動に起因する温室効果ガス総排出量の約3分の1を占めています(IPCC、2023年)。これは、電力・熱生産部門全体に匹敵する規模です。

エネルギー転換が気候対策の最重要課題であることは間違いありません。しかし、食料システムからの排出を無視すれば、パリ協定が掲げる「1.5℃目標」の達成は数学的に不可能になります。エネルギーと食料は、気候変動対策における車の両輪であり、どちらか一方だけでは前進できないのです。

世界の温室効果ガス排出源の内訳(2020年)

出典:Climate Watch, World Resources Institute, 2023

結論として、COPにおける食料・農業分野の議論は、もはや単なる周辺的なテーマではありません。それは気候変動対策の成否を左右する中心的な課題として認識され、具体的な行動計画へと繋がり始めています。もちろん、資金不足、各国の利害対立、消費行動の変革といった困難な課題は山積しています。しかし、神話を乗り越え、データに基づいた現実を直視することこそが、地球と私たちの食の未来を守るための第一歩となるでしょう。

よくある質問

COP28の食料宣言に法的拘束力はありますか?+

いいえ、宣言自体に直接的な法的拘束力はありません。しかし、署名国は2025年までに自国の気候変動対策計画(NDC)に食料システム変革を盛り込むという政治的公約をしました。これにより、国際社会での説明責任が生まれ、具体的な行動を促す圧力がかかります。

なぜ食肉消費が気候変動の問題になるのですか?+

畜産業、特に牛は消化過程で強力な温室効果ガスであるメタンを大量に排出します。また、飼料生産や放牧地確保のための森林伐採も大きな問題です。生産単位あたりの温室効果ガス排出量は植物性食品に比べて非常に大きく、食肉中心の食生活の見直しは気候対策として大きな効果が期待できます。

日本はCOPの食料・農業の議論にどう関わっていますか?+

日本もCOP28の首脳宣言に署名しており、国内の「みどりの食料システム戦略」を通じて持続可能な農業への転換を進めています。この戦略は、2050年までに農林水産業のCO2排出実質ゼロを目指すもので、有機農業の拡大や化学肥料・農薬の使用削減などが柱となっています。

小規模農家を支援するために、私たちに何ができますか?+

持続可能な農法で生産された産物や、公正な取引を保証するフェアトレード製品を意識的に選ぶことが、遠く離れた農家の支援に繋がります。また、食品ロスを減らすことも、食料システム全体の負荷を軽減し、生産者を支える上で重要な行動です。

Enjoyed this? Save or share.

気候

注目記事